中国語入門で取り上げたとおり、このサイトでは中華人民共和国で標準語として普及している普通话( 普通话 pǔtōnghuà)を学習対象としています。ここでは、中国の言語事情から始め、普通话の成り立ちや呼び方を見ていきましょう。
中国における民族と方言
中国は広大な地域です。地域により様々な方言があります。また、多民族国家で、約95%を占める漢族以外にも少数民族と呼ばれる民族が多数存在します。少数民族は独自の言語をもっています。
日本語と大きく異なるのは、同じ漢民族の言葉であっても方言間の差異が大きいということです。ひどい例として隣町の人の方言を理解することができないという地域もあります。日本ならば茨城の人がテレビで大阪弁の漫才を見ても理解できますが、上海の人が四川方言の漫才を見たらさっぱり意味が分からないという事態になります。書き言葉における差異はほとんどありませんが、話し言葉・発音の地域差異はかなり大きなものです。
※広義の意味で「中国語」といえば、全ての方言や少数民族の言葉を含めることになりますが、当サイトで言う「中国語」とは、他の多くの教科書・参考書と同じように、標準語としての「普通话」を指すことにします。
中国語(普通話)の通じる地域
中国語は、お年寄りや一部の方は方言しかしゃべれないようですが、基本的には中国全土で通じます。また、アジア各地やアメリカなど世界中にいる華僑の間でも用いられています。通説によれば「世界で最も話者の多い言語」とされています。
中国大陸の例を挙げますと、河南省出身の友人が江蘇省の蘇州市で働いていますが、彼は蘇州語が全く分かりません。それでもコミュニケーションに問題がないのは河南出身者も蘇州出身者も普通话でコミュニケーションできるからです。また、深センという地域は広東省の南、香港と境を接する場所にありますが、歴史が新しく、湖南省・湖北省・四川省出身者が多数を占めます。深センの街中では別の地方出身者同士でも普通话を使って問題なくコミュニケーションをしています。「北京以外は方言しか通じない」というのは大きな間違いです。
台湾では國語(あるいは台灣華語とも呼ぶ)という言葉が標準として普及しています。漢字は繁体字という日本語よりも画数の多い漢字を使いますが、発音は普通话とほぼ同じです。普通话と國語の間には語彙に少し差異がありますが、普通话を習うことによって、台湾の方々ともコミュニケーションが可能になります。
香港やマカオでも漢字は繁体字を使っています。この2地域は話し言葉は広東語で、ビジネス文書は英語だったり街中の掲示は繁体字であったりと言葉についてはいろいろな種類が併存しています。最近は中国大陸からの買い物客などがたくさん来ているので、街中でも普通话がよく聞かれるようになりました。
このように、中国語の標準語である普通话を身につければ、中国全土の人々および世界中の華僑の人々とコミュニケーションをとることができます。
次からは、話を中国大陸の普通话にしぼって解説していきましょう。
普通話の歴史
1956年、中華人民共和国国務院が「普通话の普及に関する指示」を発布しました。その内容は、清末の「统一国语办法案」から中華民国時代の「全国国语运动大会宣言」にいたるまで、中国統一言語の諸研究をふまえたものです。普通话を「北京地区の発音を標準の音とし、北方方言を基礎方言とし、手本となる現代白話文の著作を規範の文法とする」と定義しました。国の政策として現代中国語(普通话)を国内に広める動きがここから始まったわけです。
経済の発達に伴い、人の往来も激しくなってきました。地方から都市部に出稼ぎに来たが、言葉が分からない。都市部から地方に開発事業で来たが、言葉が分からない。同一国内でこのような状況があるということは、非常に困ることです。この困難を解決するために、普通话の普及が進められることとなったのです。
現在では普通话が普及し、コミュニケーション問題はほぼ解消されてきています。
中国現地における標準語教育
ある一定の年齢を超えると、普通话が全く話せないという年代の人々もいます。しかし最近になり、中国の標準語教育は成果をあげてきているようです。街ゆく子供たちの会話を聞くと、皆きれいな普通话をしゃべっています。
中国語の呼び方
日本では中国語の標準語という意味で「北京語」という言葉を使うことがありますが、これは日本での呼び方なので、中国では使わない方がいいでしょう。なぜなら、北京にも方言があり、北京方言は普通话と完全にイコールではないからです。
中国では北京话( 北京话 běijīng huà)といえば北京方言を指します。北京话は「標準的な中国語」という意味では使われません。中国語の標準語は普通话もしくは汉语( 汉语 hànyǔ)、あるいは中文( 中文 zhōngwén)というのが慣わしです。